【脚本】
折口忍(おりぐちしのぶ)
【出演 : 略称】
牧田スガ(まきたスガ):牧
今野円(こんのまどか):円
【衣装】
牧:戦闘帽。万歳姿に見たてる。白を基調にした格好。。
円:赤いターバン。蓋つきの駕籠を持ち、赤を基調とした格好。
【衣装協力】
花園江真(はなぞのえま)
円:よう言わんわぁ、この人ぉ。ちょっぴり蛇に寄せてきたなぁ。それはともかくぅ、聞き書きなんかをするんやぁ。
牧:テンコロコロバシも仲間やで。
円:あほぉ。そっちは拾わなくて良いんやぁ。聴いた話を書き取るんやわぁ。それでわても朝はようから起きてぇ。
牧:朝はようから起きて。
円:お隣の人、留守頼んますぅ。今日は聞き書きだすぅ……。
牧:そうか。聞き書きか。そう言うて出て来るのんか。それで蛇みたいに這うように転がったりと感心やー。それほどえらいもんになっているとは知らなんだ。おれもなあ、ちょっとそのタテクリカエシとやら、連れて行ってんか。ちっとこれから、勉強するわ。
円:転がし系やったらその白い衣装も汚れそうやけどぉ、まぁええかぁ。そうせんことには部内の話題に遅れるしなぁ。
牧:ところでと、今日はどっち向いて行くねん。辰巳の方角か?(東南を向きながら)
円:今日は行くとこ、決まってるでぇ。
牧:そらよかった。
円:この近所にな。
牧:この近所にな。
円:大きいな、声が。
牧:そうか。声を出さんでも見通せるさかいな。
円:妖怪の神さんみたいなお方がいやはるぅ。
牧:妖怪の神さんがいやはる。妖怪で神さんというぐらいやから、零落しているんやろか。
円:いいかぁよく聞きやぁ。そんな失礼なこと言わんように頼むでぇ。
牧:ふんふん。そのお屋敷で、なんぞあるのか。
円:新年も明けたってことでそのお方からお招きいただいたんやぁ。
牧:年が明けたっていつ?
円:とっくに明けとるわぁ。気分的にはまだ全然明けとらんけどなぁ。
牧:そりゃちょっとゴロゴロ寝転がっている内にいつの間に。
円:まぁそんなところでよかろぅ。どうで、言うて聞かしてもわかる人やないよってぇ。
牧:なに。
円:こっちのことやわぁ。
牧:そうか。そんなことなら、行かしてもらうわ。
円:おとなしゅうしてんねんでぇ。
牧:はいはい。
円:あんまりがっついたらいかんでぇ。
牧:わかったある。わかったある。お膝におててをおいて。おつむをこうさげて(柳田先輩にむかって)、今日はお日がらもよろしゅう御座ります。
円:分かればよろしけどなぁ、大体その手に持っているのはなんなんやぁ。
牧:こっこれはあれや、テンコロや。転がすにも叩くのにも丁度ええ。
円:(手を額に添えて顔を隠して)あんたはそれやぁ。まぁしゃべりついでに、今年の抱負でも出してもらおうかぁ……。
牧:へぇへぇ。今年も年に一回最低で本をまとめようと思ってます。
円:さてとぉー、行きまひょかぁ。(荷物の重さを意識する)
牧:ああしんどー。重いやろな。
円:薄情なやつやなぁ。
牧:持ったろか。
円:あたり前やぁ。そうこなくちゃなぁ。さぁ担げなさはれぇ。(荷物を全て下ろして)
牧:えー全部?
円:こんなん分担して担げまへんょ。
牧:よっよっしゃ。
(がちゃがちゃがちゃ。荷物の転げ落ちる音)
円:言わんことかぁ。みんな泥だらけになったぁ。はたいて落としてなぁ。
牧:丁度良いところにテンコロ持ってたわ。(といいながら荷物を砧で叩こうとする)これで行こ。
円:ちょっとぉ、叩き壊すつもりかぁ。
牧:立派なもんやろ。(砧を掲げながら)
円:(ため息をつきながら)何やら気が張るなぁ。
牧:その気のはったところで、一つ行こか。
円:何をやー。
牧:お古いところを。
円:ええやろぉ。
牧:そもそも会の始まりは三年前の悟徳学園。古くはバケモノ会という非公認さあくるで零落した神さんが……
円:ちょ、待ちぃ。悪乗りがすぎるでぇ。そんなこと言うたらわてまで怒られるわぁ。
(柳田先輩苦笑い)
牧:えろうすんませんな。でっそのバケモノ会から端を発する妖怪研究会。柳田先輩が単身、半ば強引に開設した会も新しい年を迎え我々新規入会者も増えて、まことにめでとうさむらいける……。
円:へ、へ万歳。
牧:ほ、ほ万歳。
二人:御万歳。
円:おお、うっかりしてたら、こないえらい見物やぁ。一つ御礼申そやないかぁ。
牧:よかろうよかろう。(二人、見物に向かって、一礼、坐る)
円:ここで、お土産をひらこかぁ。
牧:よかろうよかろう。れっどすねいくかもんってな。(駕籠から物を出して横座の柳田先輩に献上する。駕籠を「円」に渡す)
円:これでお祝いのおさらえはできたぁ。一つ、見物の方々へも、妖怪の神さまみたいな方とのお年の祝いのお裾分けをしまひょうかぁ。
牧:よかろうよかろう。(威張っている)
円:いつもそうしてると、おえら方らしゅう見えるのやがなぁ。
牧:そうともそうとも。えらいとこが見たかったら、この立派なテンコロを見い。
円:ほろりぃ。そりゃ太夫というには野蛮な趣きやぁ。
牧:そういうそちらは才蔵というより蛇使いの趣やけど、こちらの演目はほうくろあ(黒子)万歳でした。
柳田先輩:えへんえへん。
二人:わぁ。さよなら、さよなら。
――パタンとノートを閉じて鎌倉音東(かまくら おとひ)は折口忍の方を見る。
「砧だけで転がした感じ」
「テンコロだけにな」
「強引。零落も危険」
「だよな」
「年明けまでまだあるけれど、開演は新年だからね」
そう言うと音東は不採用ボックスに巳版のノートを入れた。
そんな会話を年の瀬に何度も行った結果、新年に黒子万歳は開演された。
(2025.01.01 式水下流 『万歳台本 黒子万歳』(ほくろまんざい)ボツ案―えんすけっ!版(巳))