万歳台本 黒子万歳(ほくろまんざい)―えんすけっ!版

台本ノート 脚本
折口忍(おりぐちしのぶ)
出演 : 略称
牧田スガ(まきたスガ):牧
今野円(こんのまどか):円
衣装
牧:コック帽(白)。立烏帽子などの万歳姿に見たてているが
スガがアドリブでフォークを持っているためそのままコックにしか見えない。
円:ベレー帽(赤)。大黒頭巾のつもりだが還暦の祝にしか見えない。
赤いベストも着せられている。大きな四角の荷を背負って出る。
衣装協力
花園江真(はなぞのえま)

本編――実際の上演を書き起こしたモノ
黒子万歳 今野円・牧田スガ
二人:(群衆をかき分けて出るように)どいたどいた。ノウマやノウマや。(よい処にきて、二人向き合う)
円:ふうんなるほどぉ、馬やなぁ。
牧:あほ言え。馬は馬でも馬が違うぞ。
円:そうやろぉ。島根県日貫村に伝わる一つ目だけど、喰らわれたら目も当てられないでぇ。
牧:よう見てや。阿波に渡ったら夜行さん乗せとったわ。
円:(はっと赤いベストを指差して)そこでわてが赤殿中かぁ、よう言わんわぁ。
牧:おぶってるぞう。――おぶってるといや、あんたそこに担げてるのん、何や。
円:これかぁ。
牧:そうや。
円:こらなぁ。
牧:気い持たすな。――どうせ、神田は神保町へ、古本でも買い出しに行ったんやろ。
円:そんなん古本の市と立ち位置が違うねんでぇ。こう見えてもなぁ。古本屋パトロールやないねんなぁ。れっきとした野外作業――ヒールド・ウォークに出かけるのやぁ。
牧:なに、ビイドロ・オウケ。そらなんや。オラビ・ソウケの仲間か。長崎とかの。ヤッホーって。
円:ええ加減にしなはれぇ。ヒールド・ウォークぅ。
牧:ヒールド・ウォーク?
円:田舎へ採集に出かけることやぁ。妖怪研究会に入るからにはこれからもあることやぁ。しっかり覚えといてやぁ。
牧:なんとかかんとか言うても、やっぱり田舎へ採集か。ふん。

合唱:夜でも昼でも牢屋は暗い。いつでも鬼めが窓からのぞくー。(ロシア民謡 どん底の歌)

牧:そんなことばかりしてると抑留されるぞ。
円:よう言わんわぁ、この人ぉ。ホークロウの採集に行くのやがなぁ。
牧:ホークロ。ホクロの採集か。ほくろの採集して、何になる。
円:さぁ。何にするのや知らんがぁ、ご近所のまことはんやたかこはんやいうおなごはんが、日曜になると出かけるはるんやぁ。それでぇ、わても朝はようから起きてぇ。
牧:朝はようから起きて。
円:お隣の人、留守頼んますぅ。今日はホークロ採集だすぅ……。
牧:そうか。ホークロ採集だす。そう言うて出て来るのんか。それで映画の見物やないだえでも感心やー。それほどえらいもんになっているとは知らなんだ。おれもなあ、ちょっとその、オラビ・ソウケたら、ほうくろ採集たらに連れて行ってんか。ちっとこれから、勉強するわ。
円:そうやぁそうやぁ。そうせんことには部内の話題に遅れるでぇ。
牧:ところでと、今日はどっち向いて行くねん。
円:今日は行くとこ、決まってるでぇ。
牧:そらよかった。
円:この近所にな。
牧:この近所にな。
円:大きいな、声が。
牧:そうか。オラビ返ってくるでな。ヤッホーって。(円が白い目で見るので)まぁ人が聞いたら、みんなついて来よるさかいなぁ。
円:ホークロウの神さんみたいなお方がいやはる。
牧:ほくろの神さんがいやはる。そこへお参りして黒子おとしてもらうんか。
円:いいかぁよく聞きやぁ。ほくろうの神さまみたいな方がいやはるのやぁ。
牧:ふんふん。そのお屋敷で、なんぞあるのか。
円:新年も明けたってことでそのお方からお招きいただいたんやぁ。
牧:年が明けたっていつ? ナマハゲやトシドンはいつきたんや。
円:とっくに明けとるがなぁ。それにナマハゲもトシドンもこの辺にはおらんなぁ。いてもミカリババとかヒトツメコゾウぐらいやわぁ。
牧:そりゃちょっと毛色が違うがな。まぁそりゃめでたいこっちゃ。なるほど、お祝いするはずや。これが祝いでおられるか。
円:まぁそんなところでよかろぅ。どうで、言うて聞かしてもわかる人やないよってぇ。
牧:なに。
円:こっちのことやわぁ。
牧:そうか。そんなことなら、行かしてもらうわ。
円:おとなしゅうしてんねんでぇ。
牧:はいはい。
円:あんまりがっついたらいかんでぇ。
牧:わかったある。わかったある。お膝におててをおいて。おつむをこうさげて(柳田先輩にむかって)、今日はお日がらもよろしゅう御座りまして、一目連がどよどよ空を飛ばない日本晴れ、ビシャの足音も聞こえません。
円:言うてる尻から、大体その手にもっとフォークはなんなんやぁ。
牧:こっこれはあれやホークロウの神さんやからフォークを持ってフォークロウってもんや。
円:(手を額に添えて顔を隠して)あんたはそれやぁ。しゃべりついでに、同人誌の言いわけもしてもらおうか……。
牧:へぇへぇ。実のところ、年内中に出すはずになっていた冬の同人誌ですが合宿や何やらで遅なりましてまことに申しわけがございません。
円:さてとぉー、行きまひょかぁ。(荷物の重さを意識する)
牧:ああしんどー。重いやろな。
円:薄情なやつやなぁ。
牧:持ったろか。
円:あたり前やぁ。そうこなくちゃなぁ。さぁ担げなさはれぇ。(荷物を全て下ろして)
牧:えー全部?
円:こんなん分担して担げまへんょ。
牧:よっよっしゃ。

(がちゃがちゃがちゃ。荷物の転げ落ちる音)

円:言わんことかぁ。みんな泥だらけになったょ。ふうふう、パタパタ(吹いたり、叩いたりして泥を払う)
牧:こら、なんや鼓やな。(紐がついていたので首にぶら下げて叩いてみる)。おお、これで行こ(ぽんぽん)
円:立派になったなぁ。
牧:おだてるな。
円:いいえ。ほんま立派になって、狸囃子かと思ったでぇ。
牧:誰が狸の腹鼓や。そう言うおまいも赤殿中やないか。
円:おぶってくれぇおぶってくれぇーって話が戻ってしまうでぇ。しかし、何やら気が張るなぁ。
牧:その気のはったところで、一つ行こか。
円:何をやー。
牧:お古いところを。
円:ええやろぉ。
牧:そもそも会の始まりは三年前の悟徳学園。古くはバケモノ会という非公認さあくるに横山黒子(よこやまくろこ)先輩が「ほくろちゃん」と呼ばれていたからホークロウと言う。
円:ちょ、待ちぃ。悪乗りがすぎるでぇ。そんなこと言うたらわてまで怒られるわぁ。
(柳田先輩苦笑い)
牧:えろうすんませんな。でっそのバケモノ会から端を発する妖怪研究会。柳田先輩が単身、半ば強引に開設した会も新しい年を迎え我々新規入会者も増えて、まことにめでとうさむらいける……。
円:へ、へ万歳。
牧:ほ、ほ万歳。
二人:御万歳。
円:おお、うっかりしてたら、こないえらい見物やぁ。一つ御礼申そやないかぁ。
牧:よかろうよかろう。(二人、見物に向かって、一礼、坐る)
円:ここで、お土産をひらこかぁ。
牧:よかろうよかろう。(大きな茶袋から物を出して横座の柳田先輩に献上する。茶袋を「円」に渡す)
円:これでお祝いのおさらえはできたぁ。一つ、見物の方々へも、ホークロウの神さまみたいな方とのお年の祝いのお裾分けをしまひょうかぁ。
牧:よかろうよかろう。(威張っている)
円:いつもそうしてると、おえら方らしゅう見えるのやがなぁ。
牧:そうともそうとも。えらいとこが見たかったら、『純喫茶ゼ・ミナール』まで来い。
円:あほらしぃ。そりゃお客さんやからなぁ。えらいんやなくて店の人が下手に出とるだけやないかぁ。そんなんやったらうちかて、見せたげるわ。(のっしのっしと歩くふり)
牧:こんなとこ見せたげるで(胸を張ってそれを誇示するように右手で右肩の当たりを叩く)
柳田先輩:えへんえへんー。(咳払い)
二人:わぁ。さよなら、さよなら。

(早々退場)

(2014.01.03 式水下流 『万歳台本 黒子万歳』(ほくろまんざい)―えんすけっ!版)